5章 テンカラ釣りの釣り方


5章 テンカラ釣りの釣り方 もくじ



1.基本の動作

先ずはじめに釣り方全体に言えることだが、釣り方は文章で読み解くだけでなく他人のテンカラ釣りを目で見て覚える方が圧倒的に感覚を掴むのが早いということ。読んだものを実際に目で見てみる。目で見たものを後から文字で読み再確認する。名人に教われば説明しながら釣って見せてくれるので更に早く上達する。

テンカラの釣り方はネットでも雑誌でもいろいろなところで書かれていているのでそれぞれを参考にするとよい。ただ注意しておきたいのはネット情報は必ずしも精通した人間が書いているとは限らない点であり、首を傾げてしまうような内容と思える記事を目にすることも少なくない。

テンカラ釣りの釣り方には様々な釣法が存在しそれこそ初心者にとって混乱を招いてしまう恐れがある為、ここでは最も基本的な流し釣りに絞って書いていく。

まずテンカラ釣りの基本の動作は「アプローチ・キャスティング・流す ・アワセる ・取り込む」の5つから構成されている。魚に気づかれないように近づき違和感なく毛鉤を投入し流して喰わせて釣りあげるのである。

2.ポイントへのアプローチ

渓流釣りにおいてもっとも重要なのがこのアプローチであると筆者は考える。アプローチは狙ったポイントに対して出来るだけ遠くから静かにそっと構えるのが一応の基本である。走ったり跳ねたりするのは良くない。魚の敏感さは想像をはるかに超えると思って良い。ここでいうテンカラのアプローチとは、どこに釣り座(立ち位置)をおきどういった角度でラインを送り込むかということも含む。もちろん自然渓流では上流へむかって釣り上がっていくのが基本である。

テンカラ釣りは足で釣ると例えられるほどテンポよく釣り上がるという考えがあるが、現在はこれについて間違った解釈が生まれているように思う。つまり「テンポよく」と「単純な動きの速さ」は全く違うということ。

たしかに釣果を上げるためには長い距離を釣ることが大切なのだが、肝心の忍びを忘れては何の意味もないのである。

テンポの良い名人は一見すると乱暴に近づいているようにも見えるのだが、実は経験に基づき常に最善のアプローチを行っているのである。最善のアプローチを行うためには流れを読み、周りの状況、自分のタックルとを総合的に判断しなくてはならない。

とにかく慣れないうちはポイントを見つけたら細心の注意で忍び寄ることに気をつける。

3.キャスティング

テンカラ釣りは「振りが全て」といわれるほどにキャスティングは重要。基本的には竿を12時の位置に振り上げて(バックキャスト)2時の位置に振り下ろし(フォワードキャスト)ラインに力を伝えて飛ばす。この時に手首を使っても使わなくてもどちらでもやりやすい方でかまわない。肝心なのは手の動きではなく竿の動きである。

上手く出来ない場合は腕や手の動きよりも竿の動きに着目してみると分かり易い場合もある。竿を振り回すのではなく12時の位置に竿を立てて、2時の位置に倒す「立てて倒す」の繰り返しなのだ。初心者は腕は12時で止まっているが、そこからさらに手首が返ってしまい10時まで後ろに倒れていることが多い。12時で止められずに「後倒して前倒す」になっていることが多い。

フライフィッシングのように投げ方に形式張った決まりはないので自己流で良い。もっというならば決して12時-2時に囚われてはいけないということ。あくまでも基本の振り幅のこと。

脇を締める、肘を高く上げる、手首を使う、その逆の教えもある。本当に色々なことがいわれている。どういうことなのか。竿の長さと調子、ラインの長さと種類、毛鉤の大きさ重さ、ハリス、釣り方、狙うポイント、等々、同じ条件ではないのである。使用するタックルバランスに適した竿の振り幅とスピードがあるので使う釣具によっても振り方に違いが生じる。

それこそ「振りが全て」といわれることからも解るように、キャスティングを考察したら道具選び、釣り方、等と関係して考察する必要がある。

筆者が[YouTube/GO TENKARA]で紹介している独自の「半月振り」や「八の字振り」は全く違う技術から成り立つキャスト方法であるためここでの紹介は割愛させていただく。

4.毛鉤を流す

毛鉤は自分の立ち位置よりも上流側へ落とし下流へ自然に流す。川の規模や釣り方によって例外はあるが先ずはこれが基本である。流れのどのあたりに毛鉤を飛ばせば良いのか、どこに魚がいるかはある程度の法則があるので初心者でも参考書や動画を見ればだいたい見当がつく。はじめのうちは、いわゆる流れのYパターン、Iパターン、ICパターンを重点的に攻めると結果が出やすいと思う。イワナ釣りならば加えてとにかく石の周辺。そこをめがけて毛鉤を落とし、あとは流れにまかせて流せば良い。

どのくらい流すのか。3秒とも50cmともいわれているが、これが正しいということはない。それこそポイントによっても状況によっても流す時間や距離感は変わってくる。ここでは3秒、あそこでは10秒、、、これを考えるとキリが無く結局のところ釣れたらそれが答えになるのだ。どうすれば良いのか。一つのポイントに対して5秒3回を1セットとして繰り返していくのが良い。あまり長すぎないほうがさまざま都合が良い。

 

よく毛鉤の種類や流し方でドライ(水面上)とウェット(水面下)について語られることがある。好みは別として、アタリをとる難しさはあるが水面下を狙った方が圧倒的によく釣れる。水面下を狙うと流れを立体的に攻めることが出来るので狙えるポイントも増える。魚の活性が低いときは水面下を流さなくては一匹も釣れない時もある程だと考えて良い。

 

アワセの項目でも述べるが、毛鉤を自然に流す際は仕掛けがピンと直線的に張った状態ではなく基本的にはブラりと弛んだ状態で流れに任せて流すのがいい。このときライン部分が水中に入らないように竿を操作する。逆にハリス部分は着水していても構わない。ラインやハリスのコントロールについては慣れてから取り組んでみて欲しい。

注意したいのは竿は2時の位置より寝かさないこと。寝かし過ぎるとラインがベタッと水面につき水流を受けて引っ張られてしまう。その結果毛鉤も不自然に流れるので魚の警戒心を煽ってしまい釣れなくなる。サソイ釣法においてはこの限りではない。

余談ではあるが竿というのは仕掛けの投入直後から流し終わるまで竿先がブレないほうが扱いやすい。ブレていたのではラインの適度な弛みを保つのに支障があるだけでなく、この先に述べるラインの動きで読むアタリがとりづらくなる。高価な竿はブレの収まりが早くシャキッとしていることが多い。

5.毛鉤が見えにくいなら無理に見なくてもよい

毛鉤を流している最中、目印のないテンカラ釣りはアタリを取るためにどうしても毛鉤を一生懸命に目で追ってしまうのだが、そうすることで余計な力が入り不自然な流れになってしまったり早すぎアワセになってしまう。それだけでなく見えなくなることに不安が生じ、毛鉤が沈むことを極度に嫌うようになることさえある。

この問題を回避するためにエルクヘアカディスやピンクのパラシュート等の洋式フライに浮力剤を塗し、更に凝視する方向へ向かう場合がある。たしかに条件が揃えば、はじめてのテンカラ釣りで釣果をあげるにはこの方法でやるのが確率が高いというのも事実である。それは、魚が毛鉤に喰いついたのが直接目に見える為アワセ易いからである。

しかし先にも述べているとおり毛鉤は水面下に沈んでいるほうが釣れる。魚は自分たちの生活圏である水面下で餌をとるほうが得意である。

 

毛鉤を水面下に沈めて流す場合どこを見て釣ればよいのか。

まず、キャスト後は毛鉤ではなくラインを見ればよい。キャストした時にどこに毛鉤が落ちたか見えることに越したことはないのだが、なんとなくあの辺に毛鉤が入った程度にわかれば大丈夫だ。慣れるまではとにかく水面との境目を流れるラインの動きに集中する。

そしてラインの雰囲気を見ながら流しているうちに何かしらの変化が起きるので、そこで迷わず「気づいたらアワセ」をすればよい。

誘い釣りの時はなにも見ないで山の観察や同行者と話をしている時もある。これは極端な例だがその位に無理に毛鉤を無理に見る必要は無いのである。(見えるに越したことはない)

6.テンカラ釣りのアタリについて

まずアタリとは魚信のことである。アタリの出方についてはそれこそ千差万別である。魚がバシャッと出るアタリ、水中でギョロっと動くアタリ、ラインがスッと動くアタリ。ラインが止まるアタリ。

毛鉤が流れるスピードも違えば水深も違うし魚の動きも違う。様々な条件の違いがアタリの出方の違いを生み出す。

毛鉤を流していて何か変だなと感じたら迷わずアワセれば良い。「変だなと感じる」これをどれだけ多く感じ取れるか。それこそがテンカラ釣りで釣果を上げる秘訣の一つである。これを鍛えるには経験の積み重ねでしかない。

毛鉤にダイレクトにバシャッと出るわかりやすいアタリは別として、ラインの変化を読むことはとても難しくなかなか言葉では表現しきれない。動画などで徹底的にラインの動きや変化をイメージに焼きつけておくことが望ましい。

毛鉤を沈めて流した時に、流れの中でわずかにスッと動いたラインを読みビシッとアワセた瞬間のしてやったり感や、水中でひっぱり出した魚をかける快感、ドライでバシャッと出た時のそれに少しも劣らない。

筆者がはじめて水面下を狙って釣り上げた時は、子供ながら目に見えない水中までも司る名人になれた気がして、釣り仲間であった大人たちに鬱陶しいほど自慢した思い出がある。

7.テンカラ釣りはアワセが難しいの実際

テンカラ釣りはアワセが難しいといわれている。既に経験者の方なら一度は聞いたこともあるかもしれない早アワセ、遅アワセという言葉。これに囚われてしまうとアワセが難しいものになってしまう。

魚の口に鉤がかかる原理を考えれば答えは見つかると筆者は考える。つまり魚の口の中にしっかり毛鉤が入っている間に竿を立ててアワセることが重要で、早くても遅くてもダメで適時でなければ口に鉤がかからないのである。

初心者はここで疑問に突き当たる。どのくらいが早くてどのくらいが遅いのかアワセの適時はいつなのかが全く見当がつかない。

それでは初心者はどうすれば良いのか。それは難しいことを考えずにアタリといわれる変化に気づいたらすぐにアワセるということである。十分それで鉤にかけることができるし初心者にとって一番やりやすい筈だ。これを筆者は「気づいたらアワセ」という。

そして「気づいたらアワセ」を可能とするのが「仕掛けをたっぷり弛ませて流す」という考え方である。

 

初心者を惑わしてしまう言葉がある。魚は0.2秒で毛鉤を吐き出してしまうという研究結果だ。発表から約30年が経過した今、これの本質を正しく伝えている記事があまりにも少なくなっているので混乱と誤解が生まれている。

0.2秒と数字にすると非常に具体的に表現できるため様々なところで乱用が繰り返されるうちに当初の内容とズレが生じているように感じる。「0.2秒で毛鉤をはなす」これを聞いたらテンカラで魚を釣る人はよほど反応速度の早い人だと思い、自分も一生懸命に早く反応しようと考えるのが普通の流れである。

一般的に人間の反応速度は0.2秒程だといわれている。

アワセの一連の動作を想像してほしい。アタリを見て、竿を立て、数メートル先の毛鉤に力を伝え魚の口に引っ掛ける。とっくに0.2秒は過ぎている。

どういうことなのか。決して0.2秒で毛鉤を吐き出すという研究結果が誤ったものではない。それは、魚が毛鉤を咥えて何かしらの「違和感」を感じてから吐き出すまでが0.2秒ということなのだ。必ず「違和感」を強調しなければいけない。

先にも述べている「たっぷり弛ませて流す」というのは毛鉤を咥えた魚に違和感を与えず、長く口の中に入れておくための方法であると断言できる。たっぷり弛ませてよそ見していると、うっかり毛鉤を呑み込むイワナまでいる。筆者が小学生の時にはじめて釣ったイワナは毛鉤を丸呑みであった。新潟の五十沢の大堰堤下での思い出。

人間の反応速度はどうすることもできない。それならば魚が咥えている時間を長くしてアワセれば良いのである。それでアワセは成功する。

長くなるので割愛するが「ラインがスッと動くとか走る」とかいった表現にも同じことが言える。答えだけに注目していると何人か介しているうちに微妙に違う内容となって言葉が一人歩きする。簡単に情報が手に入る時代であるが故なのかどうなのか。

とにかくはじめてのテンカラ釣りではラインをたっぷり弛ませて「気づいたらアワセ」するのが良い。

8.ヒットからキャッチまで

まず魚がかかったら竿を撓める。次にどこで取り込むかを決める。慌てて転倒するケースもあるので落ち着いて足場の確保をすることが最優先である。はじめから大物がいるとわかっているポイントでは取り込み場所を決めてから毛鉤を流すのも良い。

ヤマメやアマゴの大物はローリングして鉤を外そうとしたり、流れの強くて深い場所へ潜り込んだり太い流れに乗って一気に下るといった動きをするので出来るだけ浅くて流れのない場所へ竿の操作で誘導しやりとりする。

餌釣りの細糸で大物をかけた時の緊張感に比べたら、太糸を使うテンカラでは焦ることなどひとつもない。ましてや毛鉤はだいたい口先にかかっているので鋭い歯によるハリス切れの心配も少ない。

とにかく焦らずに魚が弱るまで待つことが重要で、ここでタイミングが来るまで待てるかが釣り人の上手さがでるところ。細糸をつかう餌釣り師は本当にやりとりに長けている。無理に引っ張れば魚も暴れるし、必要以上に暴れさせて引っ張れば竿も折れる。

余談ではあるが第三者にタモで掬ってもらうようなことはできるだけ控えるというのが筆者の想いだ。ゲームフィッシングであれば1対1でなければフェアではないと勝手に思っている。

大物をバラしてしまうこともまた釣りの愉しみのひとつであるし、それこそ「逃した魚は大きかった」と釣り談義に花が咲くものだ。それがまたなんとも良いのである。

9.その他のコツと考え方

筆者なりに考える上達するためのコツと考え方をいくつか紹介する。

よく毛鉤釣りの醍醐味は水面の毛鉤に魚がバシャッと飛び出ることにあるという考えがある。たしかにエキサイティングで刺激的な釣り味で筆者も好きである。釣り味の好みはともかくとして、もし釣果に悩んでいるならこのことについて考えてみるのも解決策のひとつかもしれない。

 

アワセがなかなか上手くいかない時は早すぎアワセであることが多い。特に水面にバシャッと出た時は早すぎアワセになってしまう。先にも述べた通り毛鉤をしっかり咥えてからアワセることが大事。例外的に冬などの低活性時はすぐに毛鉤を離す場合があるがはじめのうちは混乱してしまうのでこの問題に取り組まない方がいい。

 

毛鉤を沈めるとどうしてもアタリがわからないという場合は小さなインジケーターをつけて練習するといい。インジケーターに現れる動きがわかるなら、ラインの動きも読めるようになる。この場合はインジケーターが空気抵抗をもろに受けてしまい、レベルラインでは飛びが著しく悪くなるので撚り糸テーパーラインなどのパワーのあるラインで飛ばせばよい。

 

流行りのロングラインやロングハリスは飛ばすのが難しいだけでなくアタリが読みづらくなるので、様々なアタリパターンに慣れるまではやらない方がいい。ここでいうロングとは単純な長さのことではなく、竿の長さとの比率バランスが大切であるということ。釣り方によっても変わるのだがテンカラにおいてはただラインだけ長くすれば釣果が上がるというわけではないので注意したい。

 

前章テーパーラインの優位性で述べた竿の振り動作は最小かつ静かに行うというのは、魚に釣り人の存在を気付かせないアプローチの重要性にも通じる考えであり、ヒラキに出ている魚を釣るには忘れてはいけないことである。番頭を逃せば明日までそこの淵の魚は釣れなくなる程だと考える。竿を振っただけで逃げる魚はたくさんいると考えて良い。長い竿はポイントから離れることができるのでこの点において有利である。

 

ナチュラルドリフトだけが正解とは限らない。とにかく毛鉤は自然に流しなさいと教わるがどうしても釣れない時がある。魚は枯葉の欠片が流れてきたのと同じくらいにしか毛鉤を認識していないのかもしれない。そんな時はテンカラ釣りならではの「誘い」の出番である。魚は、ナチュラルドリフトにも弱いが「誘い」にもめっぽう弱い。

 

テンカラ釣りは魚に毛鉤を餌だと思わせる釣りであり、釣り人と魚の間には双方の駆け引きがある。一瞬でも魚を騙して毛鉤を咥えさせるには自らの知恵とそれを可能とする技術が魚を上回らなければならない。そのためにどうするかを考えていくのがテンカラ釣りのまた愉しいところである。