1章 テンカラ釣りとは


1章 テンカラ釣りとは もくじ


1.テンカラ釣りとは

 テンカラ釣りとは竿と糸と毛鉤を使って魚を釣る日本古来の釣りの一種で、日本各地でそれぞれの土地に合ったカタチで受け継がれてきた伝統的な釣りである。

かつては山で魚をとることを生業とする職漁師に好まれた釣法で、それ故に道具や釣技に関しては門外不出とされ非常に秘匿性の高い釣りといわれた。一方で山里の生活をみれば大抵どこの家にも古い釣竿の一本くらいはあり、それに糸と毛鉤を結んでひょいと夕飯の魚を釣るといった誰にでもできる身近な釣りであったともいわれている。

山漁師の釣りと聞くとなんとも素人には手を出しづらい釣りのように聞こえるが、実際には揃える道具数の少なさや、仕掛けの簡素さ、動きが単純作業であることから、その他さまざまある川釣りと比べても入門のハードルはとても低く誰にでも気軽に始められるフィッシングである。

2.毛鉤釣りのなかのテンカラ釣りという考え方

日本古来の毛鉤釣りには様々な様式がありテンカラ釣りはこのなかの一つであると考えられる。

いくつかの毛鉤釣りを紹介する。テンカラ、オッタタキ、ハンケバリ、チョウチン、パチンコ、両手持ちの郡上釣りというのもある。これらは各地の川の規模や渓相に合わせて生み出された土着の毛鉤釣りである。使われる毛鉤にしても様々で順毛鉤、逆さ毛鉤、普通毛鉤、各地の地名を冠した伝承毛鉤など多種多様である。

3.和式と洋式の毛鉤釣り

今日の毛鉤釣りにおいて一般的に和式とはテンカラ釣りのことであり、洋式とはフライフィッシングのこと。どちらの釣りも毛鉤を使用して釣りをすることから並べて語られることがある。

テンカラとフライフィッシングの違いについては、リールの有無に代表されるような見た目にわかりやすく映る道具の違いで語られることが多いが、実際には魚が釣れる仕組みで理解を進めなければ双方の違いの本質に迫ることはできない。

4.今日のテンカラ釣り

美しい日本の伝統文化であるテンカラ釣りは近年ULスポーツフィッシングとして再注目されており、その勢いはアウトドア愛好家だけでなく都会のファッションシーンに登場するまでになっている。都会では、休日を山や森のなかで過ごすことが素敵な大人のライフスタイルとして提案されているのだ。釣りとは無関係のように思われた有名ブランドやセレクトショップ、それにまつわる様々なメディアでテンカラが紹介されている。

5.ブームが生み出す変化

前記したように今日では様々なところでテンカラ釣りが紹介されている。誤解を恐れずに書くが今ではフライフィッシング理論と混同したテンカラ釣りを見ることが多くなった。代表的なものとして例えば9フィート以下の短いテンカラ竿、フライライン、ティペット、ドライフライを使った釣り。シンプルフライフィッシングとはよく言ったもので手元のリールの有無を見ないと判断できないくらいである。十人十色のテンカラ釣りと言ってしまえばそれまでであるが、そのような洋風テンカラ釣りを「日本伝統のテンカラ釣り」として「伝える」ことには些か違和感を覚える。海外で食べる日本料理に疑問をもってしまうのと同じことかもしれない。

職漁師でもなければ文化伝承者でもないただの釣り人なのだから自由に楽しむというのは大前提、いま一度、遊びとして楽しむテンカラと、文化として伝えるテンカラの整理があっても良いのではないだろうか。

我々はそれぞれの価値をそれぞれ認めるという柔軟性を持ち合わせているが故に日本独自の伝統文化の途絶を招いてきた過去があるということを忘れてはならない。

6.テンカラ釣りに期待すること

4大渓流釣り(えさ釣り、ルアー釣り、フライフィッシング、テンカラ釣り)の中でもテンカラは比較的に魚への負担が少ないといわれる。キャッチ&リリースの概念もあたりまえになりつつある昨今では魚へのダメージを減らすことへの配慮も求められる時代である。

テンカラ釣りの流行をきっかけに起こる渓流釣り人口の増加が「自然を大切に想う」人の増加につながることを期待する。またテンカラにおいては釣れた魚の大きさ、数、美しさの釣果ばかりに目を向けるのではなく、日本の釣りとして伝わる技術やその過程も愉しみたい。